懸想文

国語講師 吉田裕子のエッセイ、歌舞伎観劇メモ、古典作品や長唄・端唄の現代語訳など

2015年に好きになった和歌・短歌・俳句・自由律俳句

今年知ったり、今年その魅力を再発見したりした詩歌たち。

 

2015年は、カルチャースクールなどで歌集を講義する機会が多く、たくさん好きな作品に出会いました。たくさん紹介したいところなのですが、残念ながら、手もとに古典文学全集がなく……。twitterや手帳にメモをしていたものから。

 

 

笠女郎
相思はぬ人を思ふは大寺の餓鬼の後 (しり) へに額づくがごと

 

中納言兼輔
みかの原わきて流るる泉川いつ見きとてか恋しかるらむ

 

藤原敏行
秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる

 

素性法師
花散らす風の宿りは誰か知る我に教へよ行きてうらみむ

 

壬生忠岑
月影に我が身をかふるものならばつれなき人もあはれとや見む

 

石川啄木
なんとなく自分をえらい人のように
思ひていたりき。
子供なりしかな。

 

岡本かの子
桜ばないのち一ぱいに咲くからに生命をかけてわが眺めたり

 

俵万智
黒板に文字を書く手を休めればほろりと君を思う数秒

 

西田幾多郎
人は人吾はわれ也とにかくに吾行く道を吾は行くなり

 

初代中村吉右衛門
相共に流し合ひたる汗思ふ(六代目尾上菊五郎の死に際して)

 

明治天皇
何ごとに思い入るとも人はただまことの道を踏むべかりけり

 

尾崎放哉
たばこが消えて居る淋しさをなげすてる

咳をしても一人

こんなよい月を一人で見て寝る

 

種田山頭火
咳がやまない背中をたたく手がない

どうしようもないわたしが歩いている

よい湯からよい月へ出た

窓あけて窓いっぱいの春