懸想文

国語講師 吉田裕子のエッセイ、歌舞伎観劇メモ、古典作品や長唄・端唄の現代語訳など

77「せこが来て臥ししかたはら寒き夜はわが手枕を我ぞしてぬる」(和泉式部集)

和泉式部集』77番

「せこが来て臥ししかたはら寒き夜はわが手枕を我ぞして寝る」

(せこがきてふししかたはらさむきよはわがたまくらをわれぞしてぬる)


あの人が来て、泊まっているというのに、寒々しい思いをさせられる夜には、自分の腕を枕にして眠るのです。


この歌には「せこ(背子)が来て」の部分を、「せこが来(こ)で」と見る説もあるようです。今回は、その説を取らず、「せこが来(き)て」として解釈をしています。

来て、そばに臥しているだろうに、それでも「かたはら寒き夜」というのはどういうことなのでしょうか。

疲れていて、語らい合う前に眠り込んでしまったのか。

喧嘩をして、背を向けて、寝てしまったのか。

事が済んだ後、あっさりと先に休んでしまったのか。

関係自体は続いているものの、セックスレスに陥っているのか。

具体的なシチュエーションは分かりませんが、すぐそばにいながらも、自分の愛情と相手の愛情との間にズレを感じ、それを淋しく持て余している和泉式部の姿を想像してしまいます。

「もう! 昨日寝ちゃったでしょ!?」と、拗ねた気持ちを相手に訴えかける歌なのかしら。

それとも、濃密な恋愛感情を持って生まれてきてしまったがゆえに、誰に恋しようと満たされることのない自分の宿命を嘆いた独詠歌なのかしら。

……和泉式部に尋ねる方法があったら良いのですが。