懸想文

国語講師 吉田裕子のエッセイ、歌舞伎観劇メモ、古典作品や長唄・端唄の現代語訳など

尾上菊五郎さんの秀吉挑戦が評判の『新書太閤記』 二月 歌舞伎座 昼の部の感想

尾上菊五郎さんの羽柴秀吉(藤吉郎)、中村梅玉さんの織田信長中村吉右衛門さんの明智光秀など、豪華な顔合わせで、秀吉の出世物語を描く『新書太閤記』(歌舞伎座の二月大歌舞伎、昼の部)を見てまいりました。

 

 

「秀吉の出世物語の良いとこ取りで、劇的な場面を集め、歌舞伎風にやってみたいと思います」

 

尾上菊五郎さん本人が語るように、長短槍試合・三日普請・中国大返しなど、知られたエピソードを流れるように繋ぎながら、人たらしの秀吉が社会的地位を上昇させていく様子を描いたお芝居。

 

これまでも幾度か歌舞伎化される機会はあったようですが、今回は、今井豊茂さん(最近は『あらしのよるに』脚本で大谷竹次郎賞受賞)の脚本で、新たに編み直したとのこと。(筋書によると、今井さんにこの脚本のお話が行ったのは11月とのこと。吉川英治さんの原作があるとは言え、何て強行スケジュール!)

 

個人的に、印象的だった場面は三つ。

 

一つ目は、いわゆる「本能寺の変」。秀吉が主役の物語なので、あっさりめに描かれているのですが、真っ赤な炎の表現が絵として印象的でした。敵方を二人を切り捨てた後、炎の中に一人立つ信長(中村梅玉さん)の姿は忘れられません。

 

二つ目は、秀吉が信長の死を知らされた場面。まず子どものように泣きながら悲しんだ秀吉が、官兵衛の言葉を機に覚悟を決めていきます。その変化を印象付ける、黒御簾の三味線が耳に残っております。

 

三つめは、清須会議菊五郎さんの「歌舞伎風にやってみたい」という思いが具現化された場面の一つと言って良いのではないでしょうか。豪勢な大広間、三法師・秀吉・寧子を中心に、侍女や家臣の居並ぶ、歌舞伎らしい絵面。大団円という言葉がぴったりで、気持ちよく送り出してもらえる大詰でした。

 

以下、箇条書き、かつ、心の叫びとなりますが、好きだったところなど^^

 

  • 長短槍試合の木下組の勝ち鬨「えいえいおう」が妙にかわいい。
  • 亀鶴さん。林佐渡守、山渕右近、黒田官兵衛と三役の大活躍。
  • 三日普請を宣言した後、弱気になっている藤吉郎を励ます、女房寧子(時蔵さん)の明るさが好き。あの「信じております」、言われたい……!
  • この物語の前田利家がやたら格好良い。「最近、老けの役が多く、久しぶりの若い役です(笑)」と語る歌六さん。今月も素敵!
  • 半兵衛妹おゆうの梅枝さん、濃姫菊之助さんの安定感。
  • 比叡山焼き討ちの場面での梅玉さん信長の格好良さ! ビロードのマント!
  • 叡山焼討の場面、梅玉さん信長と、吉右衛門さん光秀、菊五郎さん藤吉郎の豪華なる共演なのですが、一瞬で終わってしまい、勿体ない……
  • 大詰の、時蔵さん演じる寧子。物語前半とは全く異なる、気品あふれるお姿。髪型が結構 独特な感じだったのですが、あの、肩にかかる感じが好き……!
  • 大詰、信長の三男 信孝(中村錦之助さん)が、怒りのあまり、扇をわなわなと震わしている姿……!

  

 

もちろん、通しで見るのが一番なのでしょうが、より緊張感と重厚感のある四幕目・五幕目・大詰を見られる幕見もなかなか良いのではないでしょうか。(2,000円ですし!)

 

ちなみに、二月三日節分の日に感激したので、追儺式(豆まき)がありました。三階にはスタッフの方が届けてくださいました。ありがとうございました。

 

 

↓↓ 秀吉をつとめた尾上菊五郎さんのインタビュー記事。 ↓↓