懸想文

国語講師 吉田裕子のエッセイ、歌舞伎観劇メモ、古典作品や長唄・端唄の現代語訳など

2「春日野は雪ふりつむと見しかども生ひたるものは若菜なりけり」(和泉式部集)

和泉式部集』2番

春日野は雪ふりつむと見しかども生ひたるものは若菜なりけり


(かすがのはゆきふりつむとみしかどもおひたるものはわかななりけり)

  • 春日野 ー 奈良の春日野のこと。和泉式部が実際に目にした光景とは考えにくい。紀貫之「春日野の若菜摘みにや白妙の袖ふりはへて人の行くらむ」(古今和歌集 春上)、素性法師「春日野に若菜摘みつつ万代を祝ふ心は神ぞ知るらむ」(古今和歌集、賀)などに見られるように、『古今和歌集』以降、特に、若菜・若草の地としての春日野が想起されるようだ。
  • ふり ー 「降り」と「古り」の掛詞であろう。
  • けり ー 和歌などで見られる「けり」は、前から起きていたであろう現象にいま自分が気が付いたというときの気づき・発見の感動を表す。

春日野と言えばずっと雪が降り積もる地だとばかり思っていましたが、あら今、一面に生えているのは若葉ではありませんか。

雪の白とは対照的な、若菜の優しい緑が、春の到来を柔らかく、しかし、鮮明に印象付ける、みずみずしい歌。春日野の地名も、春を感じさせて心地良い。