176「身にしみてあはれなるかないかなりし秋吹く風をよそに聞きけむ」(和泉式部集)
『和泉式部集』176番
身にしみて あはれなるかな いかなりし 秋吹く風を よそに聞きけむ
(しみじみと身にしみて悲しいのだなぁ。どのように暮らしていた秋に、秋風をよそごとのように流していたのだろうか。こんなにも身にしみるものだというのに……)
「飽き」が暗示しているように、これは相手の心変わりに思い悩む中で詠まれた歌なので、下の句は、「男に飽きられて関係が冷え込んだという話をどうして自分には関係ないことだと思っていたのだろうか、自分だって飽きられてしまうに決まっていたのに……」のように広げて解釈すべきかもしれませんね。
恋の始まりの高揚感に満ちていた頃には、まさかこの恋が冷え込むとは思ってもおらず、他の人の恋の終わりをよそごとだと思っていたわけです。でも、よそごとではなかった。自分にもこうして悲しいときが来たわけです。
眼前の風物と自身の恋の想いを、技巧的・観念的にではなく、自然に接続していく、和泉式部らしい歌だと思います。