懸想文

国語講師 吉田裕子のエッセイ、歌舞伎観劇メモ、古典作品や長唄・端唄の現代語訳など

2015.8.2夜 六本木歌舞伎@中日劇場(名古屋)の感想 評判の東京公演よりも楽しく進化した「地球投五郎宇宙荒事」

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「伝統は、たちどまらない。」

東山線の駅で見かけた愛知淑徳大学のキャッチコピーが、妙に心に響く中、向かったのは名古屋の栄、中日劇場です。

 

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地球投五郎宇宙荒事(ちきゅうなげごろううちゅうのあらごと)

 地球投五郎 … 市川 海老蔵

駄足米太夫 … 中村 獅 童
絵師の竜二 … 坂東 亀三郎
高窓太夫 … 中村 壱太郎
火消しの彦兵衛 … 大谷 廣 松
左坊 … 市川 福太郎
市川鯛蔵/与駄 … 加藤 清史郎
右坊 … 市村 竹 松
大工の源 … 市川 九團次
法漢和尚 … 片岡 市 蔵
徳川綱吉 … 市村 萬次郎

今年2月、六本木での初演も観に行きましたが、そのとき尾上右近さんだった役回りが、中村壱太郎さんに代わったくらいで、おおむね同じ顔ぶれです。冒頭で、海老蔵さんがスマホで写真を撮り、ブログに載せる流れも同じです(笑)

脚本も大きくは変わっていなかったと思いますが、前に観たときよりも、飽きずに最後まで観ることができました。何が変わったのかを細かく検証できるほど、半年前の記憶が定かではないのですが……(^^;)
 

 
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改めて、冒頭の「伝統は、たちどまらない。」という言葉から、ぼんやり考えていたことを。

時代物、世話物、丸本物、松羽目物、所作事など。歌舞伎にはもともと多様な演目があります。平成仕様の演目が、そうしたラインナップに加わるだけの懐の広さもあると思うのです。
 
伝統芸能の中では、興行(商売)としての性格が強い歌舞伎ですから、長い目で見ると、まずい出来の作品は消えていくでしょう。良ければ再演される。良くなければ(あるいは、そこそこであれば(=従来の作品を超えるほどのインパクトがないのであれば)、再演されない。

そうしたシビアな答えが出る世界で、何か爪痕を残してやろう、と思う。そんな野心こそが、役者さんたちを燃えさせるのでしょう。今の二十代から四十代の花形・中堅の歌舞伎役者さんには、そうしたチャレンジに踏み出す方が多くいます。

ただ、「新しい歌舞伎に挑戦するというチャレンジ精神が素晴らしいよね!」というのでは、都度都度、お金を払って観に行く我々としては困るわけです。

(今年のABKAI(6月、シアターコクーン)は、途中で帰りたくて仕方がない代物でしたし、この六本木歌舞伎も、初演の第2幕はイマイチだったと思うのですよ……(苦笑))

実現させたいアイデアを持っている役者さん達が、構想をあたため、稽古に励む時間を十分に持って、本人もお客さんも納得の行くクオリティで上演できる。そんな環境が、歌舞伎界に整うことを祈るばかりです。

ちなみに、新しい歌舞伎を切り拓くことに挑戦しつつ、とにかく魅力的な舞台だったのが、市川染五郎さん・中村勘九郎さん・中村七之助さんの「阿弖流為」でした。関西の方は、ぜひ10月の大阪公演を観に行かれては!

 

阿弖流為 (K.Nakashima Selection)

阿弖流為 (K.Nakashima Selection)

 

 

~ 余談 ~
 
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名古屋「六本木歌舞伎」は、夜の部でも、終演が18:55と早いので、終わった後にゆっくりご飯を食べることができて良かったです。名古屋名物のひつまぶし♪