懸想文

国語講師 吉田裕子のエッセイ、歌舞伎観劇メモ、古典作品や長唄・端唄の現代語訳など

明治座 四月花形歌舞伎 昼の部 ~勘九郎&七之助&菊之助のタッグ~ 『葛の葉』『末広がり』『女殺油地獄』

明治座 四月花形歌舞伎の昼の部を観てまいりました。

 

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七之助さんが哀しくも美しい『葛の葉』芦屋道満大内鑑 四段目)、
勘九郎さんの愛嬌と舞踊が活きる『末広がり』
菊之助さんが上方のちょっと三枚目の色男に挑む女殺油地獄
 
看板役者それぞれを立てたという点で、
バランスのとれた番組構成だと言えるのでしょうが、
最後が『女殺油地獄』の凄惨な殺しで終わるので、
終演後、帰るときはちょっとどんよりと……(苦笑)
 
(個人的な感覚として、現代演劇の場合には、
 「作品」を味わいに行くので、覚悟していくのですが、
 歌舞伎を観に行ったときは、『末広がり』のような、
 明るく楽しい作品や、華やかな舞踊で打ち出される感じが好きです。)
 
 
今回、個人的に1番好きだったのは『葛の葉』
「葛の葉子別れ」をモチーフとした『元禄港歌』を1月に観ていただけに、
我が子と離れなくてはいけない、白狐の苦悶が身に沁みました。
 
救いのように感じられたのが、『演劇界』の七之助さんのインタビューです。
 
「この芝居で救われるのは、葛の葉の正体が狐だとわかっても、保名の気持ちが離れていかないところです。決してハッピーエンドではないけれど、気持ちのいい作品だと思います。」(『演劇界』5月号53ページ)
 
悲しいだけの演目でなくて、
会場を湧かせる七之助さんの2役早替わりもあって楽しいですしね。
世話女房と姫君の対照が効いていて、
特に、母親に手を引かれ、下手に退いていくときの姫の可憐さが忘れられません。
 
 
芯となって活躍することの期待された役者さん達の早逝が続き、
40代から60代にかけての層の薄さが指摘されることの多い歌舞伎界ですが、
その一つ下の30代半ばの彼らが気を吐いていることが、
まぶしく、頼もしく、これからも楽しみです。