懸想文

国語講師 吉田裕子のエッセイ、歌舞伎観劇メモ、古典作品や長唄・端唄の現代語訳など

市川染五郎さん初の巡業座頭(松竹大歌舞伎 東コース)

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松竹大歌舞伎染五郎さん 東コースの初日(江戸川区総合文化センター)に参りました。


冒頭は、定式幕の前で、染五郎さんお一人でのスーツでのご挨拶。麺屋一燈のつけ麺についてなど、巡業公演らしくご当地ネタを盛り込みつつ、歌舞伎の歴史や演目の内容などを解説されていました。

初めての巡業での座頭(ざがしら)公演であること。自分も好きなお芝居『松浦の太鼓』で、憧れの役に初めて挑戦する意気込み。自分が以前、吉右衛門さんの主演の『松浦の太鼓』で大高源吾をつとめた中で学んだことを、今回 大高源吾をつとめる中村歌昇さんに引き継ぐことの意味。今日のこの昼の公演が、巡業の本当に最初の一回であること(だから、温かい気持ちで見てほしいこと(笑))。そのようなことを、染五郎さんのご挨拶では語っていらっしゃいました。

ちなみに、幕間のイヤホンガイドの特別放送では、全会場、巡業先のご当地クイズに答える染五郎さんトーク番組が!(笑) このクイズ番組が、考え中のBGMやピンポン・ブーの音もしっかり流れる本気仕様で微笑ましかったです。座頭公演を盛り上げようという、染五郎さんの思いを感じました。

なお、松竹大歌舞伎 東コースのパンフレット(筋書)には、主要役者(染五郎さん、歌昇さん、壱太郎さん、高麗蔵さん、橘三郎さん)の、今月のお役でのお写真がどーんと1ページで掲載されているのですが、中村歌昇さんの『松浦の太鼓』大高源吾の写真が格好良すぎるので、巡業では買えない舞台写真の代わりに、うっとりできますよ……❤︎



その『松浦の太鼓』。終わって幕が引かれた瞬間、私の後ろにいたご婦人方が「吉右衛門だったね」「ねぇ」とのやり取り。私にも、去年秋、錦秋名古屋で見た吉右衛門さんが重なって見えました(不思議と、お父様(松本幸四郎さん)と重なって見えたことはないのですが……)。


あの2015年 錦秋名古屋の大高源吾は中村又五郎さんでしたが、今回はご子息の歌昇さん。実直な雰囲気、よくお似合いでした。



私が特に贔屓にしている中村壱太郎さんは、今回「晒三番叟」「粟餅」の2つの舞踊でのご出演。


「晒三番叟」は、途中で引き抜くなどして3種類の衣装を見られますし、女方での三番叟の踊り、長い晒を翻しての踊り、所作ダテと、バラエティーに富んでいて目に楽しかったです。


そして、とにかく「粟餅」の壱太郎さんが可愛すぎました。裸足で元気に踊るのも、餅をひっくり返す仕草も、後半の仕抜き(ソロ)の踊りも……❤︎ 豪華絢爛なお姫様のお着物も素敵だけど、黒い襟の町人のお着物もとても可愛いなぁー。


「粟餅」の粟餅売りは今回夫婦で、旦那さんは染五郎さんです。


六月、碇知盛のすぐ後に『時鳥花有里』の傀儡師で出てこられたのにも驚きましたが、今回も、『松浦の太鼓』の松浦侯をつとめてすぐに、軽妙な粟餅売りで出てくる染五郎さんのご奮闘! 花道での粟餅売り夫婦のいちゃいちゃした感じの振り付けが本当に可愛くて大好きでした。


『粟餅』の染五郎さんの仕抜きでは、六歌仙を踊り分けるところがありました。これはイヤホンガイドのご案内があってこそ楽しめたように思います。



この、染五郎さんの松竹大歌舞伎 東コースは今日を皮切りに6/30-7/31で計50回と、これまでの巡業で最多となる公演回数なのだそうです! いくら8月納涼歌舞伎の初日が少々遅いといっても、暑い時期にこれだけの公演数は大変なことですね……関係者の皆さんのご健康と、千穐楽までの公演のご成功をお祈りしております!