懸想文

国語講師 吉田裕子のエッセイ、歌舞伎観劇メモ、古典作品や長唄・端唄の現代語訳など

芥川龍之介『俊寛』の読書メモと、その背景にある「俊寛もの」の蓄積

  

羅生門・鼻 (新潮文庫)

羅生門・鼻 (新潮文庫)

 

10月の錦秋名古屋 顔見世でも、10月末からの平成中村座でも、『平家女護島 俊寛(へいけにょごがしま)が上演されることが発表された。

俊寛への関心が高まっていた中で、芥川の短編集に『俊寛』という作品が収められていることに気付いた。

これは、大正九年三月『白樺』に発表された『俊寛』(倉田百三)、同じく十年十月『改造』に発表された『俊寛』(菊池寛)に対抗して書かれたものだと見られている。(芥川の『俊寛』は大正十一年一月に『中央公論』に発表された。)

 

実際に起きたこと

→ 『愚管抄』などの史料

→ 『平家物語』や『源平盛衰記

→ 能『俊寛』

→ 近松門左衛門『平家女護島』

→ 歌舞伎に移された『平家女護島』

 

それが書かれるまでには、こうした、「俊寛もの」の伝統があった。 そうした蓄積を踏まえた上で、三人は、三者三様に解釈を加え、自分なりの『俊寛』を綴ったのである。芥川の描く俊寛は、菊池寛が生み出した俊寛像に近い。島での生活を受け容れて、隠者の風情である。

読み比べたら面白いと思うので、青空文庫のリンクを貼っておく。

 

倉田百三 俊寛

菊池寛 俊寛

芥川龍之介 俊寛