懸想文

国語講師 吉田裕子のエッセイ、歌舞伎観劇メモ、古典作品や長唄・端唄の現代語訳など

坂東玉三郎さんが評判の「阿古屋」、十月の歌舞伎座 夜の部(芸術祭十月大歌舞伎)

歌舞伎座 2015年10月「松竹創業百二十周年 芸術祭十月大歌舞伎」夜の部を観てまいりましたので、簡単に感想などを。
 
 
 
 
今月の夜の部は「阿古屋」と「髪結新三」ですが、何と言っても、坂東玉三郎さんが艶やかな傾城を演じ、舞台上で3種類の楽器を弾きこなす「阿古屋」
 
 

 

胡弓(こきゅう)の音色を歌舞伎で耳にするのは新鮮で、その音色がまたお話にも合う切ない感じで、うっとりと聞き惚れておりました。


玉三郎さんだって、もう65歳なわけですけど、この演目を継ぐのは誰なのでしょうか。ここで途絶えてしまうのでしょうか。……ということを、勝手に心配してしまうわけです。


九月の「伽羅先代萩」政岡といい、今回の「阿古屋」といい、中堅・若手に向け、「この高みまで来てみなさい!」と背中で語るような、並々ならぬ気迫を感じました。

個人的には、中村七之助さんや中村梅枝さんが、そうした大役を堂々と演じる日が楽しみです。

 

それ以外で思ったことをつらつらと。

 

 

 

お分かりの方には、「何をいまさら」の無粋ななんだと思うのですが、周囲を見渡す限り、あの音色は玉三郎さん自ら弾いていらっしゃるのだということでさえ、知らないままお帰りの方も一定数いるように感じました(^^;;
 
 

そして、当代尾上松緑さんが初役の『梅雨小袖昔八丈 髪結新三』
 
3月 国立劇場で、同じく初役で新三を演じた中村橋之助さんを見た直後だったので、ついつい比較しながら見てしまうわけですが……
 

 

時代がかった橋之助さんの風格だと、「”小”悪党」という感じはあまりしなくて、お行儀の良い松緑さんの新三だと、江戸庶民の生活を写実的に描いた「生世話物(きぜわもの)」の風情は薄いように感じました。

そうした本人の生来の性質があった上で、演技でどう見せていくのか、がこれからの腕の見せ所なのでしょうね。(きっと、月初と月末でも、印象は違うのでしょう!)

なお、坂東亀寿さんの勝奴は「新三の弟分」のはずですが、新三を食わんばかりの存在感でした(笑)


全体として、二世尾上松緑さんの追善公演ということもあり、ちょっと変わった配役だったんですよね。尾上菊五郎さんが「鰹売り」として登場する趣向には、会場も温かく盛り上がりました〜。

 

 


最後に、今月 夜の部を観に行く方にお知らせしておきたいのが上演時間。

 

阿古屋 16:30-17:47
幕間 40分間
髪結新三(途中休憩なし) 18:27-20:46


という上演時間なのですよー。

中の食堂をご予約されている方だと、40分間の幕間でちょうど良いくらいかと思いますが……。お弁当持ち込み(かつ、三階席の列の真ん中の席で、横の方に1度立っていただかなくてはいけない気兼ねから、出入りしにくい状態)だった私には、大変長く感じました(^^;;


「髪結新三」も2時間以上続くので、お手洗いが近くならないよう、気を付けた方が良いかと存じます。一幕見席で「髪結新三」がもし立ち見になってしまったら、なかなか立ちっ放しは大変かもしれません……