懸想文

国語講師 吉田裕子のエッセイ、歌舞伎観劇メモ、古典作品や長唄・端唄の現代語訳など

76「下もゆる雪まの草のめづらしくわが思ふ人にあひみてしがな」(和泉式部集)

和泉式部集』76番

「下もゆる雪まの草のめづらしくわが思ふ人にあひみてしがな」

(したもゆるゆきまのくさのめづらしくわがおもふひとにあひみてしがな)

  • 掛詞:芽―めづらしく
  • 序詞:「下もゆる雪まの草の」が「めづらしく」を引き出している

 

雪の下に生え出し、雪と雪との合間に姿を見せる草の芽。そうした草の芽のめずらしいのと同じように、逢うことのめずらしい愛しいお方。そのお方に、時には逢いたいものだなぁ。

 

この和歌は『古今和歌集』恋一に収められている、「春日野の雪まを分けて生い出でくる草のはつかに見えし君かも」(壬生忠岑)を踏まえ、和泉式部なりにアレンジして出来上がった歌ではないかと思います。

切実な逢いたい気持ちを詠んだ歌でありながら、重さがなく、かわいらしさのある和歌だと思います。ひょっこりと姿を見せる芽が、不意にひょっこり現れる男性の姿を連想させるからかしら。